【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
 ようやく歩き出した背中に向かって叫ぶ。

「子爵様……っ!」

 大声に驚いた様子で、白い騎士服の背中が振り返った。

 マリアの瞳から、大粒の涙がひと筋、流れ落ちた。
 柔らかく弧をえがく薔薇の花弁の唇は満面の微笑みをたたえ、いまにも破顔しそうなほどだ。

「今まで本当にっ……ありがとうございました……!
 最期に、優しい言葉をかけていただいた、このご恩を忘れません……!」

 一瞬、虚を突かれたような顔をしたが、一度だけ手を振ったフェルナンドの姿は宮殿の外廊下の向こうへと消えていった。


 立ち上がったまま、もう一度、空を仰ぎ見る。
 改めて、決意は固まった。


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