【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
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 祝宴の日から数日が経った、肌寒い日の朝だった。
 式典のために訪れていた来賓たち全ての馬車の見送りを終え、皇城の使用人たちがようやく戻った日常に安堵の吐息を漏らしていた頃——。

 皇太子の執務室を望む木の上で小鳥の親子が囀っている。
 彼らの小さな()には、執務室を出ようとする初老の女性と若い令嬢のふたりが映っていた。

「——まさか後宮にシャルロワの王女を知る者がいたとは。それも、《《王女本人が》》認めたと言うではないか。雲隠れ王女の捜索を始めて苦節三年、事態は思わぬ方向に進みましたな!?」

 執務室から夫人が出て行くのを見送ると、恰幅の良いアルフォンス大公は精悍な眉を顰め、白髪混じりの顎髭を撫でる。

 執務机に座る美貌の皇太子は身じろぎもせず、机上に並べた左右の拳をじっと睨みつけたままだ。

「何故、今になって」
「妻は茶会でのリズロッテ王女の発言を気に掛けていたのです。王女はあなたが宮殿に住まわせている下女の正体を知っていると豪語した。式典を終え、皇城内が落ち着く頃合いを見計らってリズロッテ王女に尋ねたまでだ。リズロッテ王女の証言を疑うべくもありますまい」

 机上に両肘をつき、手を組んで額に当てがう。
 目を閉じて項垂れれば、自然とふ……嘆息が漏れた。


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