【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
「殿下……! 気持ちはわかるが気丈夫になされよ。シャルロワの王家を滅ぼしたのは貴方なのですぞ?!」

 強く諭すような大公の口調に、机上に向いていた碧い瞳が大きく揺らいだ。


 ——リュシエンヌ王女が見知らぬ女だったならば。
 結婚を強いて拒まれ、利用できぬと知れば愚王の末裔として躊躇わずに処刑しただろう。


「……言われずともわかっている」
「王女リュシエンヌは悪しき心を隠して殿下の寝所に潜り込み、復讐の機会を狙っていたのではないのか?!」

「大公、幾らあなたでも彼女を侮辱する発言は許さない……! 居酒屋にひっそりと身を置いていたのを連れ出して皇城に招き入れたのも、寝所に入れたのも俺自身だ。彼女は、マリアは何もッ……知らなかった」


 『ご飯はちゃんと食べてくださいね。』

 野花のように愛らしい笑顔が眼前をよぎった。

 『お言葉ですが……! 食事は大事です。人の心と身体を作るものです。おろそかにしてはいけないものです。食べたくとも食べられない人たちだっているのです。食べるものがちゃんとあるのにそれを無碍にするなんて……! 殺人罪よりも罪深いことだわ』

 ——ただひたすらに純粋で無垢な天使が舞い降りたように、深傷(ふかで)を負った俺を救った。

 その所為(せい)でウェインの王城を追われてからも、ろくに食べる事もできぬ酷い環境にひっそりと身を置きながら、ただ懸命に生きようとしていただけだ。

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