【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
「しかしウェインの独房で王印を見せたのだろう?! その時点で殿下の正体に気付いた可能性だってある。素性を偽り、すべて計算のもとで殿下に近付いたとも言えるではないか。逃げ出される前に捉え、すぐに投牢すべきだ……!」

 老齢にも近い大公の皺の寄った頬は紅潮し、ハの字の髭をたたえた口元は歪んでギリリと音を立てる。
 それでもジルベルトは大公に向ける冷静な眼差しを崩さない。

「彼女に与えた鍵は今、我が手中にある。外に出たいと訴えても叶わぬ。そして鼠一匹逃さぬ警備を誇るこの皇城から出ることは不可能だ」

「しかし王女が警戒すべき存在なのは確かだ。何かあってからでは遅いと言っているのです」

 大公が剣幕を翳して言い詰めるのを、ジルベルトは唇を堅く引き結び、奥歯を噛み締めて聞きながら静かに目を閉じた。

「王女をどうするかは俺が決める。……すまないが、考える時間が欲しい。ひとりにさせてくれ」


 まるで追い出されるようにジルベルトの執務室を出たアルフォンス大公は、渋い顔で宙を睨んだ。

 ——(らち)が開かぬ。

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