【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
 バカラ……ッ。
 蹄の音が馬の(いななき)とともにリュシエンヌのすぐそばで静止する。

「ライデンバーク、気が()いたか!? リュシエンヌ王女にはまだ話があったのだ!」
「は……ははッ……?! もっ……申し訳ありません」


 ——どうして、こうなってしまったのだろう。

 リュシエンヌにはわからない。
 つい数時間前、湯浴みを済ませた寝室でリーナと共にゆったりとお茶を飲み、穏やかに微笑みあっていたというのに。

 敬愛してやまなかった母親は病に伏して昨年の春に亡くなった。
 その後も王宮の離塔に幽閉し続けられ、父親や兄弟たちから妾腹だと罵られていても、優しい侍女リーナと笑顔で世話を焼いてくれる数人の使用人たちがいれば幸せだった。

 ——色香に溺れ、失政続きだと悪評の高いお父様は愚王と呼ばれた。国政を恨んでいた者も多い。いつこんな日が来てもおかしくなかった。
 
 それが、今日でも。


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