【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
 皇太子の低い呟きとともに、甲冑の足がリュシエンヌの狭い視野からすっと消える。

「ははっ!」

 意を決したリュシエンヌは、ライデンバーグと呼ばれた男の隙を付いて立ち上がり、そのまま一目散に裏の森を目指して走った。

 背後に、ちらと目を向ける。

 リュシエンヌのアメジストの瞳に飛び込んできたものは——銀色の羽飾りのついた甲冑から覗く、猛獣のようにらんらんと光るふたつの()
 リュシエンヌにとって冷徹な薄青い()は途方もなくおそろしく見え、足がすくみそうになるのを必死で立て直した。

 ライデンバーグは「ああっ!?」と大声を上げるが華奢なメイドはすばしこく、見る間に昏い森の方へと走り去ってしまう。

 慌てて追おうとするのを、この侵略戦争で帝国軍を率いる若き皇太子、ジルベルト・クローヴィスが制止した。

「待て。ひとたび入れば死の神に憑かれるという『(まつり)の森』だ。たかがメイド一人のために肝を試す必要もあるまい。放っておけ」


< 508 / 580 >

この作品をシェア

pagetop