【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

 ジルベルトは足元に横たわるリュシエンヌ王女の亡骸に視線を落とす。甲冑の奥の怜悧な面輪は、憂いを含んだ憐れみに歪んでいた。

「王女の遺骸(なきがら)は、他の王族達とともに丁重に葬るのだ」

 御意! と仰々しい礼を披露したあと、軍隊長ライデンバーグは彼らの背後で指揮を待つ軍兵達の統率に向かう。
 一人きりになったジルベルトがおもむろに頭部を覆う甲冑を脱げば、月明かりに照らされ銀糸のように煌めく髪が風に靡いた。

 ——ン……?

 怪訝な色を秀麗な面輪に滲ませ、黒々と陰鬱な存在感を放つ『祀の森』を振り返る。

 森の奥へと走り去ったメイドが何故だか妙に気になったのだ。
 何かひどく大切なことを、知らずと見過ごしてしまったような————。



 背高い木々が鬱蒼と重なり茂り、月の光も差さぬ暗い森の中を、リュシエンヌは泣きながらひた走る。
 
 死の神が棲まう『(まつり)の森』と恐れられるこの森だが、その本性は鳥や動物たちが生き生きと暮らし、昼間は多様な果実を実らせる豊かで優しい森であることを知っていた。

 だがいくら慣れた場所だとはいえ、誰もいない森の中で真夜中に一人きり。これからどうすれば良いのか。どうやって生きていくのかさえも、リュシエンヌには考えうる余地もない。


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