【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

「あぁ……リーナ……ごめんなさい……っ……!」

 リーナは自ら王女の衣装を身につけ、リュシエンヌに自分のお仕着せを着せて王女の身代わりとなって死んだのだ。
 
 『川沿いに走り、街道に抜ける。』

 リーナの最期の言いつけは何があっても守らねばならない。でなければ、自らの命を投げ打ってでもリュシエンヌを逃そうとしたリーナの想いが無駄になってしまう。

 愚王の父親や兄妹も、このシャルロワ国も。
 リュシエンヌには思い起こすほどの思い出も未練のかけらもない。

 だがリュシエンヌのために命がけで尽くした侍女の最期の笑顔と、皇太子の獣のような二つの()の脅威は——この先も胸の内にくずぶり続け、消え去ることはないだろう。

 祈るように胸の前で手を組み、静かに目を閉じる。

「神様の御元にいらっしゃるお母様。私を守ってくれたリーナのことを……よろしくお願いいたします」

 月の光も差さぬ暗い森の中。
 涙で濡れそぼった面輪を凛とあげ、リュシエンヌはさらさらと耳に届く川のせせらぎに向かって歩いていった。



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