【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

 最期に、こんな私を今まで大切にしてくださったお礼が言いたかった。
 仔猫のジルをお願いしますとも。

 処刑が斬首だとすれば、ジルベルトにはもう会えないかも知れない。
 死への恐怖よりも、処刑台に上がる前に一目でも会いたいという気持ちが込み上げた。

 煌めく星空を見上げていると、星祭りの日の夜を思い出す。

 ——私たちは、“夕星の神「ラウエル」”と“暁の女神「ガイア」”に似ている。
 決して交わるはずの無かったふたり。
 なのに恋心と性愛の神の悪戯(いたずら)によって恋に落ちた。

『今まで一人でよく頑張ったな』
 孤独だった心を包んでくれた優しい笑顔が眼裏から離れない。

『ありがとう。この世に生まれてくれたことに礼を言うよ』
 大きな腕で抱きしめてくれたあの温もりが身体から消えない。

 泣いちゃいけない。強くならなくちゃいけない。
 なのに、どうしようもない熱が胸の奥からじわじわと込み上げて、目頭をあたためるのだ。


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