【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
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 牢を抜け出し、皇城を出るのにさほど時間はかからなかった。

 人影のない夜間の裏庭を、否応なしに強く手を引かれながら歩いた。
 広大な皇城の庭はエリア毎に頑丈な鉄柵の扉が内と外とを分け隔てていたが、ジルベルトは懐から取り出した黄金の『鍵』を錠前に差し込んで次々と施錠を外した。

 厩で眠るおびただしい数の馬の中から適当な馬を一頭選びとる。手際よく鞍を付けてマリアを乗せると、自分もその後ろに跨った。

 何も知らぬ門番たちは皇太子が睨みを聞かせると慌てて開門し、幾つかの門をくぐり抜けて城壁の外に出た。
 
 いったい、どこに向かっているのだろう。

 夜道を駆け抜ける馬の上では簡単に声を掛けることもできない。馬が止まるのをただ待つだけだ。
 揺れ動く怖さに礼服の腰元に手を回せば、マリアの不安を察した力強い片腕が身体をぐ、と支えてくれる。
 ただそれだけのことなのに——溢れるほどの愛おしさが込み上げて苦しくなった。


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