【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
 刹那、利き手を腰元に運ぶ。
 ビュッ、と風を斬る音とともに、鋭く光る剣芯がマリアの眼前に掲げられた。
 
 ひっ————声にならない声。
 戦火の日、甲冑の足元で鮮血を滴らせていた切っ先の記憶が脳裏を掠めた。肩が跳ね、氷嚢を押し当てられたような寒気が背中を撫で上げる。

 突然の衝撃と驚きに目を見開いた。
 一瞬にして恐怖心が首をもたげ、硬くなってしまった身体は少しも動かない。

 鈍った思考の片隅に届いた幻聴に耳を傾けた……『覚悟は、できているはずだ』。

 ——ああ、そうか。
 ジルベルトが私をここに連れて来たのは……
 私を、殺すため……!

 不思議だった。
 そうだと分かれば、恐怖心がゆるゆると溶けていく——。
 互いに見つめ合えば、夜風が木々を揺らす音だけがさわさわと耳に届いた。

 沈黙を破るように、ジルベルトがふ、と微笑む。

 すると掲げていた剣を静かに下ろし——柄を握った拳をくるりと返して、マリアに差し出したのだった。


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