【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
「できませんっ……!」

 ジルベルトの耳に届いたのは、叫び声にも似た、聞いたこともないほど大きなマリアの声。
 拳を包み込むあたたかな温もりを感じて目を開ければ、差し出された剣の柄を拳の上から握りしめたマリアが、今にも泣き出しそうな顔で震えていた。

「そんな事……っ、復讐だなんて望んでもおりません。
 シャルロワの王族たちは、ただ血で繋がっていたと言うだけで、私の『家族』ではありませんでした。
 貿易商を生業とする中流階級の平民だった母を下賤だと蔑み、母と私に辛くあたりました。寧ろ私は、彼らは母の仇だとも思っています。
 ですから……あなたへの復讐なんて、あり得ません……! たとえ天と地が逆さになっても……!」

 ジルベルトをすっくと見上げ、絞り出すような声で訴える。
 涙を(こら)えて哀しげに微笑んだアメジストの瞳は、ジルベルトへの溢れる想いに大きく揺れていた。

「あなたを、愛しています……心から。
 今ここで……愛するあなたの手で、シャルロワ王家の生き残りである王女リュシエンヌを……私を、殺してください……!」


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