【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
 不意に呼ばれたので驚いてしまう。
 まだ少しも慣れないけれど、ジルベルトの『(きさき)』とは自分の事だ。これから先はジルベルトとともに政務をこなし、大勢の要人の面前に立つ公務の場にも頻繁に顔を出す事になるだろう。

「はい、勿論です……殿下の、仰せのままに」

 大帝国の頂点に君臨する皇太子、ジルベルトの隣に並び立つ。
 皇妃の立場を想うとき、決まって耳を掠めるのはミラルダの声だ。

『いつまでもジルベルト様に守られたまま、この宮殿に籠ったままでは、いざと言う時にマリア自身が困ることになる。
 皇族のそばに仕える者は人の裏を読み、百戦錬磨の狐狸たちとも渡り合う術を身につけなければならない。マリアは社交の面において、遅きに失した感がある。それにあなたは……優しすぎるの』

 ミラルダはその名が『ラムダ』であった頃から、こうなる事の全てをわかっていたのだ。

『あなたの本気が見たいの、マリア。優しさだけでは帝国皇太子の隣には立てない。ジルベルト殿下への愛を貫くのならば、その強い意思を見せて。わたくしから、(したた)かに殿下を奪って……!』

 だからあの時、敢えてマリアを剣呑に突き放した——崖の上から愛する我が子を蹴落とす獣の母親のように。


< 533 / 580 >

この作品をシェア

pagetop