【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
「……大丈夫か?」

 滑らかな手の甲を親指ですらりと撫でた。
 できる事なら後宮の奥に宝物のように仕舞い込んで、ジルベルトの愛に包まれながら心穏やかにだたゆったりと過ごして欲しい。
 魑魅魍魎が跋扈(ばっこ)する魔境になど立たせたくはない。

 その一方で皇宮を掌握し、強かさを身につけて誰もが認める皇太子妃として手腕を発揮して欲しいという願望もある。

 矛盾したそのどちらの思いも捨てきれずにいる自分は、途方もなく身勝手だ。
 
 ——その身勝手さに翻弄されるのはマリアだ。

 ミラルダの宣戦布告も、マリアにとってみれば親友から突然に火のついた爆薬を渡されたようなものだろう。
 意を決して相手に返さねば自爆する。
 相手の存在が大切であるほど、その決断は残酷なものになるのだ。


< 537 / 580 >

この作品をシェア

pagetop