【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
 皇太子妃になれば、このような局面が次々と訪れるだろう。
 その度にマリアは決断を強いられる。どんなに残酷であろうとも、的確な判断を下さねばならない。

 ——生きるのに過酷な環境下から救い出したつもりが、今度は果てなく精神を追い詰める辛労を課してしまったのではないか。

 そんな後ろめたさに苛まれながら、ふと見下ろしたジルベルトの目に映ったものは——純粋で天真爛漫な笑顔だ。

「いいえ。後宮で学べるのがとても楽しいのです。大公夫人は新参者の私にも良くしてくださっていますし、私の拙い知識と視野を広げてくださいます。学べるうちにたくさん学んで、未熟な私が領民のために何ができるのか……もっと良く知りたいのです」

 ジルベルトを安心させようとする愛らしい微笑みは胸の内にある闇の部分を照らし、あたたかな光で満たしてくれる。

 マリアに添い寝を命じたその日から、目を閉じれば明るい光の中にいた。
 長年ジルベルトを苦しめた悪夢さえも覆い尽くしてしまうほどの、神々しい光の中に——。


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