【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
Epilogue———*
——もしもあの時。
雲隠れ王女と冷酷皇太子の物語を伝えるとき、語り部は必ずその言葉を紡いだものだ。
もしもあの時、ウェインの地下牢でふたりが出逢わなければ。
後に希代の賢王と呼ばれる彼らの息子アルハイゼン皇帝の誕生はなかった。
そして両親の遺志を継いだ彼らの子供たちが天文学研究所を設立し、有能な学者たちを導いて『星祭りの夜』の不思議な天体現象を解明させるのも、もっと先の未来になっていたかも知れない。
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亡国シャルロワの雲隠れ王女リュシエンヌを帝国の皇太子が探し出し、皇妃に迎えるという知らせは御触れとして属国の王室および各国の国民へと伝えられた。
旧シャルロワの領民たちは涙を流し、歓喜に打ち震えたという。
と言うのも、愚王を討伐した帝国の配下に置かれるようになってからというもの、彼らの生活を苦しめていた税金の負担を軽減され、手厚い生活の補償まで受けられるようになった彼らは、三年の間にすっかり帝国民としての喜びと誇りを培っていたからだ。
有能で温情に厚く敬意を示してやまない皇太子と、彼らが乞い慕うリュシエンヌ王女との結婚は、願ってやまなかったほどに祝福すべき朗報であった。
冷酷皇太子と結婚したかつての『シャルロワの雲隠れ王女』は、旧シャルロワ国領及び 帝国中の農民たちの元を訪れ、病を患った者たちや貧しい者たちのために献身的に尽くした。
今では皆が親しみを込めて呼ぶ、『帝国の愛され皇妃』と。
数年後、性被害者の遺族ら有志が立ち上がり、『第三皇子の兄殺し事件』の真実が世に明かされる事になる。
誤解を解いた国民たちは、亡くなった女性たちへの誠実さを貫いた皇太子に改めて畏敬の念を示した。
散り散りになった遺族捜索の立役者は、ジルベルトを想う妻リュシエンヌの、実に二年にも及ぶ強い信念であった——。
——そののち。
皇妃となったリュシエンヌはジルベルトとの間に三人の子、二人の美しい皇子と花のような姫をもうけた。
愛する夫と子供たち、心強い友人たちに囲まれたその人生は、波乱とそれに勝る輝きに満ちたものだったと伝えられている。
アスガルド帝国第十三代皇帝となったジルベルトは、皇帝位を即位してからも他に妃を取らず生涯リュシエンヌただ一人を愛し抜いた。
正妃以外に側妃は娶らぬと誓った、その言葉通りに。
《完》
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*このあとの、コミカライズ御礼SS『ジル猫と皇城の7年後』もよろしくお願いいたします*