【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
コミカライズ御礼SS

* ジル猫と皇城の七年後 *









──そして物語は本当の完結へ──

〜謎に包まれていた(?)エタニティー・プロンプトに託された《想い》とは〜


本編では書ききれなかったジル猫のその後と、
七年後の皇城のお話です。



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 しなやかな肉球が一歩、また一歩と踏みしめるその床はひどく冷たい。

『大理石』という名の石が敷かれているらしく、皇宮に仕える大勢の使用人たちが毎朝時間をかけて、顔が映るほどに磨き上げている。

 だが仔猫の——いや、違った。
 人間でいう年齢ならば七歳、もう立派な《《壮年の》》雄猫にも、このいかにも滑って歩きにくいだけの石の板がどれほど高価で貴重なものなのかなんてちっともわからないのだった。

 広々とした廊下の真ん中を音を立てずに歩く。
 皇宮の人間たちはそんな彼を見ると、流石は皇后様の猫だ、美しい、立派だなどと褒めてくれるのだが、褒め言葉だろうと嘲笑だろうと猫は飄々(ひょうひょう)として意にも介さない。

 お日様が真上に昇り、使用人たちが揃って昼食の準備に追われるこの時間の回廊は閑散としていて、猫が堂々と散歩するにはちょうど良い。

 首に結ばれた空色のリボン、金色の小さな『鍵』が歩くたびに揺れる。

 裏側に彫られた『JILL《ジル》』のアルファベット——人間が使う文字なんて彼には少しも読めやしないが、これは彼の名なのだそう。 


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