【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
*
本宮を抜けて獅子宮殿に続く廊下に差し掛かった時、ジルは両足を止め、じっと息をひそめた。
わずかばかり首を伸ばして『皇帝陛下と同色』で高貴だと絶賛されるアイスブルーの瞳を大きく見開くと、銀色の美しい毛並みの耳をぴんとそば立てる。
彼の苦手な——正確には犬にも勝る《《天敵》》である——の気配が近づいてきたのだ……それも《《ふたつ》》も!
ジルの警戒も知らずに、天敵たちは鈴が転がるような高い声を響かせる。
「そっちのようすはどうだ、副隊長」
「隊長、《いじょう》なし!」
「そうか。よし、いくぞ」
「いくぞ〜っ!!」
くるりと踵を返せば、獅子宮殿の奥からたどたどしい足音がこちらに向かって来るではないか。
「母上の寝所まであとすこしだ」
「おう!!」
彼らの頭上の壁には額縁に入った巨大な絵画——皇后の親友だという著名な女性宮廷画家が描いたもの——が掛かっている。
壮麗な額縁の中で、彼らの両親の肖像が厳かに微笑んでいた。
ジルは慌ててどこかに身を隠そうと周囲を見回すが、手近な場所に隠れられそうなものがない。窓際に花を生けた大きな壺を見つけ、それを目指して一目散。
《《天敵たち》》を勢いよく横切ったまでは良かった。
「あ」
「あ〜っ」
——見つかった。
思うが早く、天敵たちは壺の後ろに回ったジルを兵糧攻めにして、いとも簡単に抱え上げてしまう。
本宮を抜けて獅子宮殿に続く廊下に差し掛かった時、ジルは両足を止め、じっと息をひそめた。
わずかばかり首を伸ばして『皇帝陛下と同色』で高貴だと絶賛されるアイスブルーの瞳を大きく見開くと、銀色の美しい毛並みの耳をぴんとそば立てる。
彼の苦手な——正確には犬にも勝る《《天敵》》である——の気配が近づいてきたのだ……それも《《ふたつ》》も!
ジルの警戒も知らずに、天敵たちは鈴が転がるような高い声を響かせる。
「そっちのようすはどうだ、副隊長」
「隊長、《いじょう》なし!」
「そうか。よし、いくぞ」
「いくぞ〜っ!!」
くるりと踵を返せば、獅子宮殿の奥からたどたどしい足音がこちらに向かって来るではないか。
「母上の寝所まであとすこしだ」
「おう!!」
彼らの頭上の壁には額縁に入った巨大な絵画——皇后の親友だという著名な女性宮廷画家が描いたもの——が掛かっている。
壮麗な額縁の中で、彼らの両親の肖像が厳かに微笑んでいた。
ジルは慌ててどこかに身を隠そうと周囲を見回すが、手近な場所に隠れられそうなものがない。窓際に花を生けた大きな壺を見つけ、それを目指して一目散。
《《天敵たち》》を勢いよく横切ったまでは良かった。
「あ」
「あ〜っ」
——見つかった。
思うが早く、天敵たちは壺の後ろに回ったジルを兵糧攻めにして、いとも簡単に抱え上げてしまう。