【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

 まだ若い時分であれば無理にでも逃げ切ることができたろうが、回廊を追い回されるほどの体力を消耗するくらいなら大人しく捕まった方がましだ。

 天敵のひとり、六歳になったばかりのアルハイゼン皇子は、三キロの重さがある猫を脇の下に手を入れて易々と持ち上げた。
 ジルの長い両足がだらりと床に向かって垂れ下がる。

  ——やめろ、放せ。

 身悶えて思いきり抵抗するが、皇子が掴んだ両手を放さない。
 わずか六歳の幼子のいったい何処にこんな怪力があるのか。

「ジル、よい《《ていこう》》だ。ほうびに我らのミッションをおしえてやろう」
「おしえてやろう!!」

 弟のエルヴィン皇子は四歳、教育係が手を焼くいたずらっ子だ。
 オウム返しをするように、舌が(もつ)れそうなたどたどしさで兄の言葉を繰り返す。

「我らのミッションは《《お宝》》さがしだ」
「そうだ、お宝さがしだ! お宝が、ははうえの寝所にかくされているのだ!!」

 彼らの母君——皇后リュシエンヌの寝所に隠された『宝』と聞き、ジルはすぐさま彼らの目的の深意を察した。

 ——宝探しなどそう簡単に行くものか、このたわけどもが。
 
 乱暴に両脇をつかんで離さない天敵二人に毒付く。けれどジルの心情に少しばかりの《《嫉妬心》》が含まれているのは否めなかった。

 ——おまえたちに、ボクの気持ちなんかわかるまい。

 毎日が空虚でやるせなくて、自分だけがまるで異空間の住人で。
 自分は砂の中に一粒だけ混ざった小石みたいだと感じずにはいられない……。

 そんな気持ちなんて、マリアと同じ人間のおまえたちにわかるまい。


< 566 / 580 >

この作品をシェア

pagetop