【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
 アルハイゼン皇子の不意を突いてぐにゃりと身体をくねらせる。
 すると、猫の突然の動きに驚いた小さな両手がぱっと広がった。

 瞬時に体勢を整えたジルはそのまますとんと床に降り、ここぞとばかり全力で走る。目指すは数メートル先の飾り棚の上だ。

「あーあ、逃げられちゃった」

 エルヴィン皇子が小さな唇を尖らせて肩を落とすも、アルハイゼン皇子は平然としている。

「エルヴィー、ミッションをわすれたのか? 猫なんか放っておけ。それよりお宝を探しにいくぞ」
「そうだね、どうでもいいぞ、猫なんか!」

 アルハイゼン皇子が父親譲りの銀髪をさらりと撫で上げるのを見て、エルヴィン皇子も同じように、母親譲りのウエーブがかったストロベリーブロンドの前髪を撫でた。


 *


 彼らがそうするうちに、獅子宮殿の廊下がざわつき始めた。

 背中を覆う重厚なローブをひるがえし、本宮から颯爽と闊歩してくる立派な男がいる。

 背後には険しい表情を乗せた数名の従者を従えているが——なかでも白い騎士服を着た男はとりわけ不本意らしく、陣頭の主君に向かってごちゃごちゃと小言を繰り返していた。


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