【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
「陛下、いい加減になさい。これで今日、何度目です?! 気持ちはわかりますが少しは立場を考えていただきたい」

「夫が愛する妻の寝所を訪れて何が悪い。午前の公務は済んだはずだ。昼休みにまで君に指図される覚えはないだろう、フェルナンド」

「机上に積まれた書類が山となっているのを見ただろう。四六時中、机に向かっても足りないものが今日中に片付くとは思えんが」

 足早に先頭を歩く男に少しも悪びれる様子はなく、全身から焦りを滲ませる従者たちとは対照的に、むしろ形良い口元に弓形の笑みさえ浮かべている。

「君は親友の慶事に祝いの言葉ではなく拷問を言い渡す無頼漢なのか? それとも政務を妃の寝所に持ち込めとでも? そんなに心配せずともやるべき事はやる、全てちゃんと間に合わせる」

「陛下の虚言はまったくもって信じがたい」
「失敬だな、俺がいつ虚言を吐いたと?」

 陛下、と呼ばれたジルベルト・クローヴィスはそれでも頬に浮かべた笑みを絶やさない。
 その笑顔はまるで胸の底から湧き立つ喜びを噛みしめているようであった。


 *


 大人たちの仰々しい背中の行列が廊下の奥に去ってしまうと。

「……あぶなかったな、エルヴィー。もう少しで父上に見つかるところだった」


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