【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
——また《《やられた》》のかしらね……?
大きくて重いバケツを両手で提げてきたものの、井戸なんて影も形もありゃしない。
——お店が忙しい時間だもの。早く戻らなきゃ店長さんに叱られる。
『マリア、またお前か!』店主の罵声と怒った怖い顔が目に浮かんだ。
どうしよう。
井戸などなかったと言って店に戻ろうか……。
——でもっ。もし井戸水が本当に必要で、井戸もちゃんとあるとしたら?
不安と焦りとで胸がぎゅっと締め付けられる。
あの三人に担がれたのかも知れないけれど、万が一のためにもう少しだけ探すことにした。
——あった……!
黒々とした茂みに隠されるようにひっそりと、古びた井戸がマリアの視線の先にある。急いで駆け寄って——躊躇いながらもこわごわ中を覗き込んだ。
「こんな古い井戸に、お水なんてあるのかしら……?」
井戸の中は真っ暗で何も見えやしない。
マリアが少しだけ深く、身を乗り出した時。
背中を強く押されるのを感じたと思えば、視界がぐらりと回転した。