【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
 ジルは凛とした雄猫の表情をわずかに曇らせた。

 ——奴らは聞いてなかったのか? 先に着いたジルベルトがマリアの寝室に居るだろうに。運良くその場にたどり着いたとしても、すぐに連れ戻されるに決まってる。

 そして幾度となくまばたきを繰り返し、込み上げる寂しさを心の隅っこに押しやろうと務めた。

 ——マリアの寝室には、このボクだって入るのを許してもらえないんだぞ……!

 心の中で賭けをする。
 ジルにだけわかる賭けだ。

『マリアが寝所に皇子たちを入れるか、入れないか。』

 マリア——いやリュシエンヌがもしも自分の夫と息子たちを部屋に入れて、ジルだけが入れてもらえなかったら……? 

 じわりと湧いた根拠のない不安がジルの小さな胸をいっぱいにしていた。

 ——《《彼ら》》は人間の『家族』で、ボクは人間とはちがう生き物で……。

 子供が生まれてから、マリアは子供たちに付きっきりになった。
 花々が薫る美しい庭で、日が暮れるまでジルと遊んだ幸せな思い出なんて、もうすっかり忘れてしまったみたいに。
 
 いつかマリアが教えてくれた。
 マリアたちは『人間』で、ジルは『猫』という種類の生き物なのだと。

 そして『家族』という言葉の意味も。
 『家族』はとても大切で、マリアにとって何にも変え難いかけがえのない存在だということも。


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