【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
俄かに騒めく扉の向こう側で、二人の幼子が叫ぶような声を上げるのが聞こえたのだ。
廊下にはフェルナンド宰相と二人の従者を待たせてある。幼子の声の他に、数名の大人たちの慌てたような声が混ざった。
この獅子宮殿内を自由に歩ける幼子と言えば、思い当たるのは《《あの二人》》だけ。
「ジルベルトっ」
事情を悟ったリュシエンヌが目配せをする。
ジルベルトは阿吽の呼吸で外の状況を飲み込むが、けれどほんの少しの落胆とともに目を閉じた。
「あいつら。また部屋を抜け出したな」
「ふたりを叱らないで。あの子たちもきっとあなたと同じ気持ちで、ここまで来たのでしょうから……っ」
わかっているよ。
扉に向かいながら肩越しに振り返った秀麗な面輪には、父親然とした優しい笑みが灯っていた。
なのにしばらく経っても、ジルベルトが向かった扉の向こう側の騒ぎが収まる様子がない。
——何かあったのかしら。
リュシエンヌが宝石のようなアメジストの瞳に僅かばかりの不安を滲ませた頃、
「母上っ」
「ははうえ〜〜〜っっ」
勢いよく扉が開かれ、先ほどジルベルトがそうしたように、ひどく遠慮がちに……両親と同じアイスブルーの瞳とアメジストの瞳を持つ二人の皇子たちが重なるように顔を覗かせる。
「あの……。入っても、いいですか?」
きちんと尋ねることが出来たのは、アルハイゼン皇子だ。