【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

「あのね、あのね」
「こらこら。そなたらの母上は療養中なのだぞ? それに……静かに。頭の良いお前たちなら状況がわかるだろう?」

 気もそぞろで落ち着かない二つの小さな背中にあてがわれた大きな手は、ジルベルトのもの。

「母上に、お願いがあるのです」
「あるのです!」

 昨夜未明に倒れてから、子供たちと顔を合わせるのはこれが初めてである。

 六歳、四歳とまだ幼いが凛とした眼差しを向けてくる息子たちを、リュシエンヌは改めて愛おしいと思った。

「はいはい、構いませんよ。二人とも此方(こちら)にいらっしゃい」
「あ……はいっ、でも、その前に」

 アルハイゼン皇子がもじもじし始めれば、エルヴィンも同じような仕草を取る。彼らを背後で支えるジルベルトもまた、扉の向こう側から動かない。

「母上を煩わせるな。何事も医者の許可を得てからだ」
「お願いって何かしら。それにアルハイゼン……あなたは《《何を》》抱えているの?」

 リュシエンヌの声が届くや否や、アルハイゼンの腕の中に収まっていた白いものがぐにゃりと身体をくねらせ、暴れだした。
 もがいてどうにか逃れようとするものを、子供の腕が許すまじと抱え直す。

「まぁ、ジル? ……どうしてここに」
「僕たちのあとをついてきてたんだ。それで、そのっ……この猫も、母上に会いたいんじゃないかって、思って」

「ねぇ、猫もいっしょに『お宝探し』、してもいいでしょう?」

 エルヴィン皇子が言う『お宝探し』はよくわからないが、アルハイゼン皇子の言うことは一理あるのかも知れない。

 医師からの助言で動物の《《毛》》を吸い込む事は好ましくなく、動物との接触を極力控えるようにと命じられていた。
 ジルとの接触も以前より減ってしまっていたことは否めない。

 ——ジルにも随分と寂しい思いをさせているわね。


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