【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
 そんな彼らのやり取りを——ジルは皇子の腕の中で聴いていた。
 
 ——アルハイゼンのやつ、余計な事を。
 ボクは部屋に入れてもらえない……聞かなくたってわかってる。
 だから、もう離せ! 離せってば。

 マリアを想う気持ちは誰にも負けていない。ここにいる誰とも変わらない。
 けれどジルは、自分だけが《《人間》》じゃなく《《猫》》だというひどく残酷な『現実』を受け入れたくなかった。

 皇子たちについて来たのは、彼らが叱られるのを見たかったから。
 なのに皇子たちは叱られるどころか、いとも簡単にマリアの寝室に入ろうとしている。

 ——マリアが皇子を寝所に入れるか、入れないか。
 賭けの結果は、やっぱりボクの予想どおりだった。

 懸命に暴れたって、もがいたって、抗おうとしたって……どうにもならない。
 子供の力と言えど、小さな、《《たかが》》猫にはちっとも敵わないのだった。

 かすれた声を絞り出し、哀しく叫ぶようにひと鳴きすると、ジルはアーモンド型の目をぎゅっと瞑《つむ》る。

 それなのに、マリアの口から出たのは思いがけない言葉であった。

「ええ、勿論よ。《《みんなで》》入っていらっしゃい」


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