【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
「リュシエンヌ、ジルを寝室に入れても良いか、まずは医者の許可を得ねばなるまい」

 ジルベルトの文言を遮って、ついにお許しが出たとばかりに皇子二人が寝室に駆け込んで行く。
 アルハイゼンの腕に抱かれたジルには、何が起こったのかがわからない。

「母上、お元気そう……っ」
「よかったぁ!」
「ええ。明日にはもっと元気になりますよ」

 寝台に駆け寄った幼子二人を両腕に抱き寄せ、額にキスを落とす。
 エルヴィン、アルハイゼン、そして……ジルの小さな額にも。

「あっ! ああ〜〜〜っっ!!」

 エルヴィンが突然大声を上げたので、皇子ふたりに続いて寝台に向かったジルベルトが慌てたふうに「シィッ!」と口元に人差し指をあてた。

 だが(つい)に、幼子を黙らせるという涙ぐましい努力も無駄になったようで——。

 ふにゃぁぁぁぁ。
 リュシエンヌの寝台の脇に置かれたベビーベッドから、弱々しい赤子の泣き声が(こぼ)れた。

「あらあら。お兄様たちの声で目を覚ましたのね」

 リュシエンヌがそろりと寝台を降り、小さなベッドに幾重にも重なるシルクの天蓋をめくって、柔らかな産着に包まれた、明け方に生まれたばかりの小さな小さな我が子を掬い上げた。


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