【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
 雨雲を一掃したのは、他でもなく。

 ジルの鬱屈など知ることもなく、冬枯れた森を渡る春風のごとく当然のようにマリアが放った笑顔と言葉だった。

「ジルっ、あなたにも紹介するわね。妹のフロレンティーナよ。これでジルも《《二人の弟と一人の妹の》》お兄さんになったわね。この子がもう少し大きくなったら、遊び相手になってあげてね」

 ジルはもう暴れたりしなかった。
 追い出されるどころか、そよ風のような穏やかさで囁かれた言葉に驚いて、アイスブルーの二つの()がくるくると動いた。


 ——ボクがお兄さんって……どういうこと……?


「妹だけズルいよ! 母上(ははうえ)、僕らもジルと遊んでいい?」
「ええ勿論。でもいじめちゃダメよ? それにジルの抱っこはもう少し優しくね」

 赤子をあやしながら、リュシエンヌ——マリアが静かにジルを見つめる。


 ——マリア。

 ボクは、ここにいていいの?
 ボクは、みんなと違ってる。
 ボクは、人間じゃないんだよ、猫なんだよ?


 ジルの不安も寂しさも、全てを見透かすようなアメジストの瞳はとても優しい。

「ジルは私たちの『家族』だから」


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