【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
宿の主人への挨拶はそこそこに、急くように外に出る。
——この辺りなんだけど
宿屋の軒先に酒瓶が並べられている場所があり、マリアはその木箱のわずかな隙間にうごめく灰色っぽい小さな《《何か》》を見つけたのだ。
——あの三角の耳はきっと仔猫ね? それもかなり小さな……。母猫が近くにいるといいけど。
心配になり、酒瓶の木箱の間をそっと覗き込む。木箱と木箱の間の、奥の方にうずくまるように丸まって、小さな毛玉がじっとこちらを見つめていた。
マリアが手を伸ばすと、
「シャーッ!」小さいながらにしっかりと威嚇してくる。だけどその様はどこか弱々しく、突然目の前に現れた大きな人間の顔に必死で「来るな、近寄るな!」と訴えているように見えた。
「あなた、ひとりぼっちなの?」
宿屋の軒先に沿って細い路地のようになっているけれど、辺りを見渡しても親猫の姿は見られない。
「あなたも、ひとりぼっちなのね……?」
この場所にうずくまり雨風は凌げていたのかも知れない。けれど灰色に汚れた仔猫の被毛の下には露骨に丸く飛び出し、背骨が毛皮から浮き出て見えた。
——こんなところであの雨に耐えていたのかしら。また降るかもしれないし、このまま放っておいたら死んじゃうわ。
「大丈夫よ、怖がらないで……ねっ?」
仔猫を興奮させないように、マリアはゆっくりと……そうっと手を伸ばす。
「痛っ」
仔猫の爪がマリアの手の甲をかする。たとえ極小の爪でも、仔猫にとっては決死の一撃だ。