【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
「大丈夫よっ……。大丈夫だから、こっちにいらっしゃい?」
その隙間はとても狭い。かがんで両方の肩を縮こませるようにして、もう片方の手も木箱の隙間にそっと差し込んだ。
フーッ、フーッ
小さくなって眉間に皺を寄せていた仔猫だが、マリアの両手が自分に危害を与えるものではないとわかったのだろうか。しばらくすると、先ほど自分が付けたばかりの傷跡を赤い舌でちろちろ舐め始めた。
「良い子。持ち上げるわよ? 少しだけ我慢してね」
少しずつ手を動かすたびに優しく声をかける。マリアの言葉に応えるように、仔猫は時々消え入りそうな声で「みゃぁ」と鳴いた。
「なんだマリア、遅かったじゃないか!」
雨が上がったからだろう。定食屋は思いのほか混んでいた。マリアの姿を捉えた店主が怒鳴る。店主の両腕には食事が盛られたトレイが載っていた。
「すみません、宿屋のご主人とお喋りをしていて」
「何話してたんだか知らんが。そんな事言って、アムルんとこでもなんかヘマしたんじゃないだろうな?! ったく、使えねぇ」
日頃からマリアの失敗を見下す従業員たちがくすくす笑っている。
——泥だらけでご主人には変に思われたかも知れないけど、言われた荷物はちゃんと届けたわ。ヘマなんてしてない……。