猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない
ぽかぽかとフリードリヒの胸をたたくアリアナの目は涙に潤んでいる。
その様は、鷹や鷲という猛禽というよりは、フクロウの赤ん坊のようだった。
おや……?と周りの面々が首を傾げ、しばしの沈黙がその場に落ちる。
そんな中、ふいに、誰かが言った。
「あ、アリアナさまって、かわいいのでは」
「しっ……!いやでもたしかに……」
「赤ちゃんフクロウ……」
「ばかしか語彙がないって、それ、もしかしてミリナ様への悪口もそれしか言えてないってこと?」
「いや、っていうか、そもそもこのかわいいのが悪意ある言葉を発するのがもう想像できないんだけど……」
周囲の、アリアナへの悪印象があっという間に塗り替えられていく。まるで仕組まれてでもいるかのように。
混乱して、あわあわと涙を浮かべ、最終的にはずかしくてフリードリヒにしがみつくアリアナは、その時に浮かべられたフリードリヒの薄い笑みに気づかない。