猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない

 しかしそんなことはもはやアリアナには関係ない。
 ぐるぐる回る頭で、震える口で、必死に「ばか」と繰り返すしかできないのだ。

「ふふ……アリアナはかわいい。本当にかわいいね……。本当は、人前にこんなにかわいいところを見せたくはなかったんだけれど」
「かわいくっ、ないですっ!」
「うーん、まったくもってかわいい」

 かみしめるようにフリードリヒが言う。周囲の生徒たちがそれぞれに頷くのがわけがわからない。
 アリアナは、しぼりだすような声で言った。

「だって、そんな、どうして……そう思っていたなら、言ってくださらないの」
「君が好きすぎて照れてしまったんだ。でも、このままではいけない、と思ってね」

 フリードリヒの目がすう、と細められる。
 アリアナは気づけば目から涙を流してしまっていて、しゃくりあげるような嗚咽を我慢することができなかった。
< 21 / 27 >

この作品をシェア

pagetop