猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない
けれど、手当を受け、数日の間生死の境をさまよったアリアナが目を覚まし、見舞いに来たフリードリヒに「あなたが無事でよかった」とほほ笑んだとき、フリードリヒは、自分はこの娘のために生まれて来たのだ、と確信した。
生涯残る傷は、アリアナの容貌も変えてしまった。
それ以前に、死ぬところだったのだ。幼いアリアナが鉄臭い海に沈むところを覚えている。
それなのに、アリアナは自分よりフリードリヒを優先したのだ。
憐憫だろうか、いたわりだろうか――憧憬だろうか。
いいや、そのどれとも違う。
フリードリヒは、この瞬間恋に落ちたのだ。
恋などというには生ぬるい、汚泥のような醜くどろどろした愛に、おぼれた。