元ヒロインの新妻は元ヴィランの夫から逃げられない 〜あなたは征服欲と支配欲のために私と結婚しただけなの、ちゃんとわかってます。は? 愛してる⁉ 本気ですか⁉〜
第4話 元ヴィランの夫は、どうやら私を溺愛しているようです。
「待って、ちょっと待って!」
「待てるかクソッ」
抱きしめられて、全身が熱くなった。耳たぶにそって舌を這わされ、合間に低い声で「みどり、可愛い」と囁かれると、それだけでぞくぞくした。耳たぶを甘く噛まれて、体が跳ねる。
「何が、イヤなんだ?」
イヤじゃないのがイヤなの! 恥ずかしいの! いつも冷酷無比なこの人が、私をこんなに愛してくれてることが信じられない。
「ひゃっ、あ、待って触っちゃダメ、あっ、アッ!」
大好きな夫の指が体の上をすべっていくだけで、私は背筋をのけぞらせた。
「気持ちいい?」
私はイヤイヤした。言えない、そんなこと。
「みどりは本当に可愛い」
そう囁きながら胸乳を吸われる。気持ちいい。溶けてしまいそう。
「龍一郎、さん……」
私は目を開けた。ぐったりとしたまま、彼がベッド脇に手を伸ばし、コンドームをつけるのを見守る。彼は自分自身に装着しながら、吐き捨てるように言った。
「お前が資格をとっても、俺は絶対に離婚しないぞ」
「うん。……いいよ。私が資格とりたいのはあなたのためだから。あなたに長生きしてほしくて、管理栄養士になりたいんだもん。少しでも長く、あなたのそばにいたい」
彼はなにか言いたげな顔をして、でも言えずに頬を赤くし、大きな右手で顔を隠した。なんなのこの人。こんな可愛い顔するなんて。
「龍一郎さん、そんな顔するんだ」
「するさ。お前にそばにいたいと言われるなんて、思ってなかった」
「お願い、来て」
私の願いに応えて、彼がゆっくりと私の中に入ってくる。両思いの相手と結ばれたのが嬉しくて、私の体は勝手に龍一郎さんを締めつけた。
「みどり、みどり」
呻くように私の名前を繰り返す夫に、激しく愛される。あとからあとから溢れ出す快楽に、頭が真っ白になった。気持ちよくてたまらない。
私は夫にしがみついたまま、全身を震わせた。
全身にキスを落とされる感覚に、私はぼんやりと目を開いた。
「起きたのか」
私に気づいた夫が、満足そうに微笑した。私は夢うつつのままうなずき、その顔に見入った。男らしいくっきりとした眉。他者を威圧する鋭い眼差し。高い鼻と厚みのある大きめの唇。
万人受けする王子様タイプのイケメンじゃない。敵に回せば相手に容赦しない恐ろしい人なのもわかってる。それでも私はこの人に心を奪われた。彼は体を起こし、私の体も起こしてくれた。
「あなたは、どうして私を好きになってくれたの? いつから?」
「……一番最初の課題を覚えてるか。どちらの写真が心を揺さぶるかというやつ」
「うん」
もちろん覚えてるよ。夫は私を見つめたまま、優しく目を細めた。
「勝ったのは俺だったが、俺は君の撮った猫集会の写真に心を揺さぶられた。可愛いと思った。写真じゃなくみどりが」
え。そんなに前から⁉ 私の驚きの表情に、夫は苦笑した。
「仮面と衣装の下の素顔は、もっと可愛いんだろうなと思っていた。でも現実世界で出会った君は想像以上で、まったく自分を抑えられなかった。俺みたいな汚いヴィランは、君みたいに清らかなヒロインにはふさわしくないとわかっていたのに。……もっとゆっくり時間をかけるべきだったのに、我慢できなくて手を出した。すまない」
私はふるふると首を横に振った。嬉しかった。
「私はもう少し後。あなたがお金の力を捨てて、自分の能力で私と対戦してくれるようになって、いつもあなたのこと考えるようになったの。ねえ、龍一郎さん。あなたは人殺しを悪いと思ってないでしょう? 愉しみのために人を殺したりする?」
それは本当は前々から気になってることだった。
「俺は快楽殺人者じゃない。一応言っておくと、前科はない」
お、おう。前科はないですか〜。私は自分で聞いておいて、内心引いた。夫は淡々と言った。
「我が社は他社と同じ一般的な警備業務もしているけれど、脅迫状を受け取ったセレブを、海外マフィアから警護するような特殊業務も請け負っている。だから逆恨みもあるんだ。基本的には司直の手に渡すようにしてるけれど、やむを得ない場合は自分で自分の身を守ってきた」
その生き方を否定できなかった。そうだよね、だから防弾仕様の車に乗ってるんだよね。私は彼の手を握って見上げた。
「うん。あなたを信じてる。だからあなたも私を信じて。私が好きになった人はあなただけだってこと」
彼は何か言いたげな顔をした。けれど、さっと作り笑いを浮かべて「ありがとう」と言った。私のこと信じてくれないんだ。
「どうして信じてくれないの?」
「いいや信じるよ。……でも君は若い。もしヒーローが現れたらどうだろう。本来ヒロインはヒーローと結ばれるものだから」
イライラした。そんなことはわかっていた。それを言うならヴィランだって、結ばれる相手はヴィラネスと相場が決まってるじゃない!
ちょっと待って。そう言えば最近、ヒーローとヴィラネスのカップルの話を読んだような。
「悪役令嬢だ!」
「……は?」
眉を寄せている夫に、私はにこにこ笑顔で推測を語ってきかせた。
「だからね、最近の流行りは、悪役令嬢がヒロインを押しのけて婚約破棄を申し出る予定の王子様と結ばれるお話なの! そっか、ヴィラネスはヒーローとカップルになってるんだ! よかった。あなたの前に本来の運命の相手があらわれたらって、ずっと思ってた」
夫は泣き笑いのような顔をした。
「みどりは……本当に……可愛いな」
「ふふっ、私の取り柄はウジウジしないことぐらいだもの。ヴィランとヒロインじゃなくなったけど、ほんとはまだまだあなたと競いたいの。どちらのほうが安上がりで素敵なデートを提案できるかとか!」
「それは是非とも受けて立ちたいね」
「それからどっちのほうが、相手を幸せにできるかも!」
彼はさらにくしゃっと顔を歪めた。まるでいまにも泣き出しそうな顔だった。
「それはダメだ。だって、君と結婚できて幸せになれたのは、圧倒的に俺のほうだから」
彼の、本心からの言葉に体の奥底から温かいものが湧き出してくる。私は思わず夫に飛びついた。そうして彼の上に乗っかると、彼が本気を出して逆襲してくるまでキスの雨を降らせた。
「待てるかクソッ」
抱きしめられて、全身が熱くなった。耳たぶにそって舌を這わされ、合間に低い声で「みどり、可愛い」と囁かれると、それだけでぞくぞくした。耳たぶを甘く噛まれて、体が跳ねる。
「何が、イヤなんだ?」
イヤじゃないのがイヤなの! 恥ずかしいの! いつも冷酷無比なこの人が、私をこんなに愛してくれてることが信じられない。
「ひゃっ、あ、待って触っちゃダメ、あっ、アッ!」
大好きな夫の指が体の上をすべっていくだけで、私は背筋をのけぞらせた。
「気持ちいい?」
私はイヤイヤした。言えない、そんなこと。
「みどりは本当に可愛い」
そう囁きながら胸乳を吸われる。気持ちいい。溶けてしまいそう。
「龍一郎、さん……」
私は目を開けた。ぐったりとしたまま、彼がベッド脇に手を伸ばし、コンドームをつけるのを見守る。彼は自分自身に装着しながら、吐き捨てるように言った。
「お前が資格をとっても、俺は絶対に離婚しないぞ」
「うん。……いいよ。私が資格とりたいのはあなたのためだから。あなたに長生きしてほしくて、管理栄養士になりたいんだもん。少しでも長く、あなたのそばにいたい」
彼はなにか言いたげな顔をして、でも言えずに頬を赤くし、大きな右手で顔を隠した。なんなのこの人。こんな可愛い顔するなんて。
「龍一郎さん、そんな顔するんだ」
「するさ。お前にそばにいたいと言われるなんて、思ってなかった」
「お願い、来て」
私の願いに応えて、彼がゆっくりと私の中に入ってくる。両思いの相手と結ばれたのが嬉しくて、私の体は勝手に龍一郎さんを締めつけた。
「みどり、みどり」
呻くように私の名前を繰り返す夫に、激しく愛される。あとからあとから溢れ出す快楽に、頭が真っ白になった。気持ちよくてたまらない。
私は夫にしがみついたまま、全身を震わせた。
全身にキスを落とされる感覚に、私はぼんやりと目を開いた。
「起きたのか」
私に気づいた夫が、満足そうに微笑した。私は夢うつつのままうなずき、その顔に見入った。男らしいくっきりとした眉。他者を威圧する鋭い眼差し。高い鼻と厚みのある大きめの唇。
万人受けする王子様タイプのイケメンじゃない。敵に回せば相手に容赦しない恐ろしい人なのもわかってる。それでも私はこの人に心を奪われた。彼は体を起こし、私の体も起こしてくれた。
「あなたは、どうして私を好きになってくれたの? いつから?」
「……一番最初の課題を覚えてるか。どちらの写真が心を揺さぶるかというやつ」
「うん」
もちろん覚えてるよ。夫は私を見つめたまま、優しく目を細めた。
「勝ったのは俺だったが、俺は君の撮った猫集会の写真に心を揺さぶられた。可愛いと思った。写真じゃなくみどりが」
え。そんなに前から⁉ 私の驚きの表情に、夫は苦笑した。
「仮面と衣装の下の素顔は、もっと可愛いんだろうなと思っていた。でも現実世界で出会った君は想像以上で、まったく自分を抑えられなかった。俺みたいな汚いヴィランは、君みたいに清らかなヒロインにはふさわしくないとわかっていたのに。……もっとゆっくり時間をかけるべきだったのに、我慢できなくて手を出した。すまない」
私はふるふると首を横に振った。嬉しかった。
「私はもう少し後。あなたがお金の力を捨てて、自分の能力で私と対戦してくれるようになって、いつもあなたのこと考えるようになったの。ねえ、龍一郎さん。あなたは人殺しを悪いと思ってないでしょう? 愉しみのために人を殺したりする?」
それは本当は前々から気になってることだった。
「俺は快楽殺人者じゃない。一応言っておくと、前科はない」
お、おう。前科はないですか〜。私は自分で聞いておいて、内心引いた。夫は淡々と言った。
「我が社は他社と同じ一般的な警備業務もしているけれど、脅迫状を受け取ったセレブを、海外マフィアから警護するような特殊業務も請け負っている。だから逆恨みもあるんだ。基本的には司直の手に渡すようにしてるけれど、やむを得ない場合は自分で自分の身を守ってきた」
その生き方を否定できなかった。そうだよね、だから防弾仕様の車に乗ってるんだよね。私は彼の手を握って見上げた。
「うん。あなたを信じてる。だからあなたも私を信じて。私が好きになった人はあなただけだってこと」
彼は何か言いたげな顔をした。けれど、さっと作り笑いを浮かべて「ありがとう」と言った。私のこと信じてくれないんだ。
「どうして信じてくれないの?」
「いいや信じるよ。……でも君は若い。もしヒーローが現れたらどうだろう。本来ヒロインはヒーローと結ばれるものだから」
イライラした。そんなことはわかっていた。それを言うならヴィランだって、結ばれる相手はヴィラネスと相場が決まってるじゃない!
ちょっと待って。そう言えば最近、ヒーローとヴィラネスのカップルの話を読んだような。
「悪役令嬢だ!」
「……は?」
眉を寄せている夫に、私はにこにこ笑顔で推測を語ってきかせた。
「だからね、最近の流行りは、悪役令嬢がヒロインを押しのけて婚約破棄を申し出る予定の王子様と結ばれるお話なの! そっか、ヴィラネスはヒーローとカップルになってるんだ! よかった。あなたの前に本来の運命の相手があらわれたらって、ずっと思ってた」
夫は泣き笑いのような顔をした。
「みどりは……本当に……可愛いな」
「ふふっ、私の取り柄はウジウジしないことぐらいだもの。ヴィランとヒロインじゃなくなったけど、ほんとはまだまだあなたと競いたいの。どちらのほうが安上がりで素敵なデートを提案できるかとか!」
「それは是非とも受けて立ちたいね」
「それからどっちのほうが、相手を幸せにできるかも!」
彼はさらにくしゃっと顔を歪めた。まるでいまにも泣き出しそうな顔だった。
「それはダメだ。だって、君と結婚できて幸せになれたのは、圧倒的に俺のほうだから」
彼の、本心からの言葉に体の奥底から温かいものが湧き出してくる。私は思わず夫に飛びついた。そうして彼の上に乗っかると、彼が本気を出して逆襲してくるまでキスの雨を降らせた。