貴公子アドニスの結婚
貴公子アドニス
ラントン公爵家の嫡男アドニスは、その名のあらわす通り、神話の中の美少年に例えられるほど見目麗しい。
絹糸のような銀髪に憂いを帯びた碧色の瞳。
やや低音の声は心地よく響き、スラリと伸びた指も繊細で美しい。
また幼い頃から神童と呼ばれるほど優秀で剣の才もあり、現在は王太子妃の護衛騎士を勤め、将来は近衛隊長と目されている。
見目麗しく将来有望な貴公子には、当然のように山のような縁談が舞い込んできたが、しかし二十四歳になった今でも、彼は独身を通していた。
見合いは十数回、そのうち婚約にこぎつけたのは二回ありながら、成婚に至ったものは皆無だったのである。
それは全て、ラントン公爵家の家風と、彼自身の苛烈な性格によるものである。
実はこの国の王家は相当愛の重い家系で、そのせいで国政を傾けた事例もあったほど。
それ故王家を支えるラントン家は逆に愛を嫌悪する雰囲気があって、夫婦愛も家族愛も酷薄な当主が多かった。
ラントン家にとって妻とは家の高貴な血を繋ぐ道具であって、それ以上でもそれ以下でもない。
下賎な血が入らないよう名門貴族令嬢と政略的な結婚はするが、公爵夫人という名誉職を宛てがって毒にも薬にもならない社交のみやらせ、あとはただ後継を生ませるばかりであった。
絹糸のような銀髪に憂いを帯びた碧色の瞳。
やや低音の声は心地よく響き、スラリと伸びた指も繊細で美しい。
また幼い頃から神童と呼ばれるほど優秀で剣の才もあり、現在は王太子妃の護衛騎士を勤め、将来は近衛隊長と目されている。
見目麗しく将来有望な貴公子には、当然のように山のような縁談が舞い込んできたが、しかし二十四歳になった今でも、彼は独身を通していた。
見合いは十数回、そのうち婚約にこぎつけたのは二回ありながら、成婚に至ったものは皆無だったのである。
それは全て、ラントン公爵家の家風と、彼自身の苛烈な性格によるものである。
実はこの国の王家は相当愛の重い家系で、そのせいで国政を傾けた事例もあったほど。
それ故王家を支えるラントン家は逆に愛を嫌悪する雰囲気があって、夫婦愛も家族愛も酷薄な当主が多かった。
ラントン家にとって妻とは家の高貴な血を繋ぐ道具であって、それ以上でもそれ以下でもない。
下賎な血が入らないよう名門貴族令嬢と政略的な結婚はするが、公爵夫人という名誉職を宛てがって毒にも薬にもならない社交のみやらせ、あとはただ後継を生ませるばかりであった。
< 1 / 30 >