貴公子アドニスの結婚
初夜の晩から、アドニスは夜勤がない日は毎晩のように新妻の寝室を訪れた。
護衛騎士は交代制ではあるが時間が不規則だ。
勤務は夜通しのこともあれば、明け方に帰って来たり深夜に出て行くこともある。
だから、食事を共にするのも稀で、妻はほとんどの時間を姑である公爵夫人と過ごした。
公爵は結婚を機に爵位をアドニスに譲りたいと思っていたが、アドニス自身が護衛騎士を退くのを嫌がった。
彼にとって、やはり優先されるのは王太子妃フィリアであったから。
また、公爵を信頼する現国王が、引退を止めようとしたことも大きな理由だ。
アドニスは騎士の仕事以外の時間を公爵家の仕事にあて、父もしばらくはそれで様子を見ることにした。
優秀なアドニスは、騎士の仕事をこなしながらも難なく父親から引き継ぎを受け、着々と次期公爵としても成長していたのである。
しかしそのため、余計に新妻との時間は取れなくなっていた。
義娘を可愛がる公爵夫人は苦言を呈していたが、それに従うようなアドニスではない。
それに、アドニスは彼なりに妻とうまくいっていると思っていた。
夜勤でない限り、必ず妻の寝室を訪れていたからだ。

アドニス夫妻を心配していた王太子妃フィリアは彼に結婚を機に騎士を辞めるよう言ったが、それもまた聞くようなアドニスではない。
クビにすることも考えたが、アドニスは優秀であり、フィリアにとっても気心の知れた仲だ。
それに、アドニスに探りを入れれば、彼はイキイキと新婚生活を語った。
彼が新妻に夢中なのは明らかだ。
また、フィリアはクライン伯爵夫人と呼ばれるようになった彼女をお茶に誘ったり王宮図書館に誘ったりしたが、そんな時、彼女の首筋から鬱血痕がのぞいていたりした。
彼女は隠しているつもりなのだろうが、あれは明らかにキスマークだ。
クライン伯爵夫人はアドニスに愛されている。
安心したフィリアは、アドニスに騎士を辞めるよう言わなくなっていった。
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