貴公子アドニスの結婚
アドニスは仏頂面で俯く妻を前に、どうしていいかわからなかった。
いつも従順な妻が、突然反抗的になったのだ。
そう、彼女はいつだって…。
そう思って、アドニスは自分の胸に問いただした。

(いつも…、というほど、私は彼女を知っていただろうか)
思えばこの三年余り、一緒に食事をしたのも行動を共にしたのも両手で数えられるほど。
会話さえ、二人きりではほとんど無い。
彼女の事業のことや、子供の成長のことも、親や家令から聞くことの方が多かった。
そう、彼女の日常のことだって、彼女と茶会をしたという王太子妃から聞くことさえあったくらいだ。
夫婦らしい会話も触れ合いも、何一つなかったのだ。
しかしそれは、元々条件に合う女性なら誰でも良いと思っていたからだ。
条件さえ満たせば、籍だけの妻で構わないと…。

そう、ニケの言う通り、彼女は最初に提示した三つの条件を満たしてくれた。
愛は求めないこと。
公爵家の家政に口をはさまないこと。
そして男子を生むこと。
それなのに、彼女に執着しているのは自分の方だ。
ニケに指摘されるまでもなく、彼女をまるで性欲処理の道具のように扱っていたのはアドニス自身である。
それほど、彼女の体が良かったからか?
しかしアドニスは他の女性を知らない。
それに、ニケが望むように他の女性で満たされたいとはどうしても思えないのだ。

< 20 / 30 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop