貴公子アドニスの結婚
「ニケ、私はそなたを愛している。やっとわかった。この、そなたに対する気持ちが愛なんだ。だから私はそなたに触れたいと、」
「勘違いです」
ニケに触れようとアドニスが差し出した手を、彼女は器用に避けた。
悲しげにニケを見上げるアドニスの瞳は潤んでいて、それこそ神話に出てくる美青年を彷彿とさせる。
余程強靭な心を持っていなければうっかり絆されてしまうだろう。
でも…。
(私はもう絆されない)
ニケは冷たい目でアドニスを見下ろした。
「旦那様…、初夜の晩、私を抱きながら貴方が言った言葉をお教えしましょうか」
「……え?」
「貴方はあの時、私の耳元で、フィリア様、フィリア様と何度も言ったのよ」
「……まさか」
「いいえ。貴方はあの日、私をフィリア様の代わりに抱いたの。あれ以来、私は自分の心を殺したわ。だって貴方は決して手に入らないフィリア様を想いながら、私を抱くのよ。こんな屈辱って無いわ。だから私は、貴方と心を通じ合わせることも諦めた。愛してもいない男に抱かれる毎日は、苦痛以外のなにものでもなかったわ。しかも、ちっとも気持ちよくなかった」
「勘違いです」
ニケに触れようとアドニスが差し出した手を、彼女は器用に避けた。
悲しげにニケを見上げるアドニスの瞳は潤んでいて、それこそ神話に出てくる美青年を彷彿とさせる。
余程強靭な心を持っていなければうっかり絆されてしまうだろう。
でも…。
(私はもう絆されない)
ニケは冷たい目でアドニスを見下ろした。
「旦那様…、初夜の晩、私を抱きながら貴方が言った言葉をお教えしましょうか」
「……え?」
「貴方はあの時、私の耳元で、フィリア様、フィリア様と何度も言ったのよ」
「……まさか」
「いいえ。貴方はあの日、私をフィリア様の代わりに抱いたの。あれ以来、私は自分の心を殺したわ。だって貴方は決して手に入らないフィリア様を想いながら、私を抱くのよ。こんな屈辱って無いわ。だから私は、貴方と心を通じ合わせることも諦めた。愛してもいない男に抱かれる毎日は、苦痛以外のなにものでもなかったわ。しかも、ちっとも気持ちよくなかった」