貴公子アドニスの結婚

執行猶予はあげません

待望の嫡男が生まれたわずか半年後、クライン伯爵アドニスとニケ夫人は離縁した。
改心するからと執行猶予を願い出ていたアドニスを、ニケはピシャリとはねつけた。
彼女は義務を果たし、夫から解放される日を心待ちにしていたのだ。

ニケから三行半を突きつけられてなお往生際悪く渋っていたアドニスを説得したのは、意外にも彼の母親の公爵夫人だった。
彼女もまた、かつて夫に無関心を貫かれ、意思のない人形のように扱われていた妻だったのだ。
公爵夫人はアドニスをこんな風に育ててしまった責任は自分にもあると、全面的に義娘ニケの味方になった。
教会で、離縁許可書をもらって来て、息子にサインを迫ったのだ。

「私はずっと言い続けていたわ。ちゃんと、ニケと向き合いなさいと。でもあなたは私の言葉なんて聞かなかった。お父様もあなたも、ラントン家の男はみんな同じ。女には感情なんて無いと思ってる。でも女だって同じ人間なのよ。心無い言葉を言われれば傷つくし、自分を愛そうともしない相手を愛することはないわ」
母にそう言われ、アドニスは返す言葉もなかった。
同じ内容でも今までなら何も感じなかった母の説教が、初めて心に響いたのだ。
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