貴公子アドニスの結婚
(…まぁ、作りは悪くないな。見るに耐えないと言うほどでもない)

アドニスは見合いの席に現れたベルトラン子爵令嬢を不躾に観察した。
なんとも時代遅れのドレスに身を包み野暮ったいアクセサリーをつけているが、これもきっと彼女なりの一張羅なのだろう。
あまり手入れされていないのかせっかくの銀髪もくすんで見えるし痩せ気味で貧相だが、顔の作り自体は不細工というほどでもない。
今回の仲人役である伯母の伯爵夫人などは令嬢の姿を見て、扇子で口元を隠しながら明らかに嘲笑している。
(自分で取り持っておきながら失礼なことだ)
アドニスは名門というだけでベルトラン子爵令嬢を連れてきた伯母に鼻白んだ。

令嬢はぎこちなくカーテシーをすると、口を開いた。
「私はベルトラン子爵家の長女で、ニ…」
「ああ、名乗らなくとも結構だ。多分名前を呼ぶこともないだろうから」
アドニスは令嬢が挨拶しようとするのを遮った。
結婚すれば、アドニスは便宜上公爵家の持つ爵位の一つクライン伯爵を名乗る。そうすれば、彼女はクライン伯爵夫人と呼ばれることになり、アドニスが父の跡を継いでラントン公爵になれば公爵夫人と呼ばれるのだ。
また、屋敷では若奥様、奥様と呼ばれることになるだろう。
つまり、名前を呼ばれる必要などないのだ。

「そちらの希望は弟が一人前になるまで後見するってことだったかな?」
アドニスはすぐにこの結婚で両家が得る利益について話し始めた。
内容については縁談が持ち込まれた時点で両家で話し合われているが、再度本人同士の確認の意味だ。

ベルトラン子爵家には今年十二歳になる嫡男がいる。
彼は王都のアカデミーに入学を希望しており、ラントン公爵家はその支援を申し出たのだ。
それから、ベルトラン子爵領で盛んな養鶏事業もうまくいくよう、王都の商工会や高位貴族御用達の商家に顔つなぎしてやる約束もした。
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