貴公子アドニスの結婚
婚約期間中、隣国から訪問した王族をもてなすために、王宮主催の晩餐会が開かれた。
ベルトラン子爵令嬢も次期公爵の婚約者として参加したが、義父母と一緒に入場した。
本来エスコートするべきアドニスは護衛騎士の任務を優先し、フィリア王太子妃の側を離れなかったのだ。
もちろん王太子妃は勤務を代わって婚約者をエスコートするよう勧めたし、両親も散々叱責したが、アドニスの選択は変わらなかった。

そんな義娘を不憫に思った義父は、彼女をダンスに誘った。
今こそ、レッスンの成果を披露する時だと。
ベルトラン子爵令嬢は義父の思いに応え、可憐で優雅なダンスを披露した。
会場は、初めて見る公爵家の婚約者に釘付けになった。
仕立ての良い豪奢なドレスに身を包み、洗練されたダンスを披露しているあの令嬢が、つい先日まで貧乏子爵家の娘と蔑まれていた娘と同一人物だなんて。
ここまでになるのに、どれだけの努力を重ねてきたのだろう。
彼女に興味を持った紳士たちは挙ってダンスを申し込み、夫人たちは我先にと話しかけた。
そしてとうとう、王太子妃フィリアまでが彼女に声をかけ、後日お茶会に招待するとまで言ったのだ。
公爵夫人はそんなベルトラン子爵令嬢を自慢げに見守っていた。
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