花婿が差し替えられました
あれからも二回ほど、王太子妃ゾフィーと連れ立って王宮内を歩くアリスを見かけた。
ゾフィーと仲の良いアリスは今までもこうしてお茶に付き合わされることがあったようだが、気にも留めていなかったから気づかなかったのだろう。
こうして気づくようになってみれば、連れ立って歩く淑女二人はとても艶やかだ。
それに、クロードの瞳…。
アリスを見つめる彼の瞳には、以前よりあきらかに、親愛の情がこめられている。
そしてとうとうクロードは、夜勤以外の日は王宮を出て自宅に寝泊まりするようになった。

今日も、夜勤明けだったクロードはサンフォース邸に帰る。
朝の挨拶を済ませると、彼はいそいそとルイーズから離れて行った。
そのクロードの後ろ姿を見送るルイーズに、お付きの侍女がそっと声をかけた。
「クロード様は来月の騎馬試合に出場なさるそうですわよ」
「騎馬試合…?」
未成年王族だったルイーズは観覧したことがなかったが、そういうものがあるのは聞いたことがある。
「優勝すると陛下から望みを叶えてもらえるそうです。クロード様は何を望まれるのでしょうね。もしかしたら、王女殿下のことかもしれませんわ」
侍女がうっとりと頬を染める。

『騎馬試合に優勝した騎士が唯一の望みは王女殿下だと国王陛下に訴える』というようなお伽話は、巷で溢れている。
少女たちは皆、自分にもそんな騎士が現れることを夢見ているのだ。
(でも…、それは無いわ)
ルイーズはポツリと呟いた。
騎士の鑑のようなクロードが、妻帯している身でそんな非常識で大それた望みを抱くわけがない。
それに、ルイーズを見る目にそんな熱量がないこともわかっている。

(でも…、あの女を見る目は…)
このままでは、クロードは隣国について行かないと言い出すかもしれない。
「なんとかしなくちゃ…」
ルイーズはそう呟くと、エントランスを出て厩舎へ急ぐクロードの後ろ姿を、窓から眺めていた。
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