花婿が差し替えられました
女癖が悪くともお頭がお花畑でもよいと思っていたアリスだが、さすがに結婚前にナルシスの子を宿した女の登場は予測していなかった。

「さすがに婚外子がいる人は無理だわ。この結婚はなかったことにしましょう」
アリスは無表情のままあっさりとナルシスに告げた。
そして踵を返すと、あわあわと慌てふためくだけのナルシスを一瞥もせずにテキパキと侍女に指図し始めた。
まずは教会の神父へ、そして教会に向かっていたアリスの両親の馬車にも結婚取りやめの連絡を入れるようにと。

「侯爵家のご家族はもう到着してらっしゃるはずだからすぐに連絡を。ご参列の方々には申し訳ないけど私の方からご説明いたしましょう」
「待ってくれ、お嬢!そのまま説明してはお嬢の名前に傷が付く!」
秘書のラウルが焦ってアリスを止める。
「別に傷などつかないわ。むしろ式を挙げる前に判明してよかったのよ」
「だから私は最初から反対したのです!こんな下半身ダラしない男など!」
侍女のフェリシーが憤慨の余り淑女らしからぬ暴言を吐いている。
「仕方ないじゃないの、今そんなこと言ったって」
アリスは涼しい顔で答えた。
「誤解だ!僕は無実だ!」
誰も、ナルシスの叫びなど聞いていない。
彼は縋るような瞳をアリスに向けた。
彼女はいつもナルシスに会えば花のような笑顔を向けていた。
話は噛み合わなかったが、二人の間に流れる空気は決して不愉快なものではなかったはずだ。

「あの女は僕以外の男とも関係している。だから僕の子供を身篭ったなど嘘だ!信じてくれ、アリス!」
「でも貴方の子ではないという確証もありませんのよね?」
「それは…。でも君は、僕を愛しているのだろう?」
そうでなければ、あの数多いた求婚者の中からナルシスを選んだ理由がない。
「いいえ、ちっとも」
アリスは冷ややかな瞳をナルシスに向けた。

「飛び回っているだけならいざ知らず、他の花に受粉までさせるミツバチはもういりませんわ。さようなら、侯爵家の次男様」
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