花婿が差し替えられました
そして四男クロードは、幼い頃より騎士として身を立てることを望んでいた。
四男で継ぐべき爵位もない彼は次兄ナルシスのように良い婿入り先を探すか、三兄のように兄の下で働くか、または己で身を立てるか選ばなくてはならない。
一見恵まれていないようにも見えるが、自分の道を自分で切り拓いていける自由さもある。
クロードはその自由さを選び、己の腕一本で生きて行こうという希望を持っていたのだ。
早くから侯爵家を出て騎士学校の寄宿舎に入っていたクロードは、優秀な成績で卒業すると同時に近衛騎士団に配属された。
滅多に実家には寄り付かなかったのだが、今回次兄の結婚式で久々に戻ってきたのだ。
まさか、その場でクロードの未来が歪められることになろうとはー。

クロードは父から次兄の代わりに結婚しろと言われた時、まさか悪い冗談だろうと思った。
結婚式当日に…。
兄が不祥事を起こしたから弟が代わりに結婚してくれと。
そんなバカな話があってたまるものか、とクロードは思う。
自分はこれから、騎士として名を上げるのである。
それは家族も了承している話であって、事実周りにも優秀な騎士として認められつつある。
精進して精進して掴んだ今の居場所を、兄の尻拭いのために捨てろと言うのだろうか?
父はクロードに、強制ではなく懇願した。
「今サンフォース家と縁を切るわけにはいかない」
「頼む、クロード」
「おまえだってコラール侯爵家の男だろう」
「おまえだけが頼みの綱なのだ」

結局クロードは、頷くしかなかった。
コラール侯爵家の息子であるクロードは、実家を見捨てることができなかったのだ。
そうしてコラール侯爵は、サンフォース伯爵家に花婿の差し替えを申し出た。
貴族として恥ずかしい、屈辱的な姿であり、こんな父の姿をクロードは忘れないであろう。
そして父にこんな思いをさせた次兄ナルシスを軽蔑するとともに、兄を抑えられなかった父をもまた尊敬はできないとも思う。

父が申し出た時、次兄の花嫁になるはずだったアリスは驚愕に目を見開いていた。
花婿が突然相手の弟…、しかも自分より年下の男に差し替えられるのだ。
こんな屈辱的な話はないだろう。
当然怒り、罵られることを想定していたが、彼女はこちらが驚くほど冷静だった。

「お受けいたします」
そう答えた彼女は、悲しくなるほど美しかった。
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