花婿が差し替えられました
さて、隣室ではー。
アリスが思った通り、クロードは頭を抱えていた。
騎士学校の宿舎暮らしだったクロードは周りに女性がいない生活が長い。
厳密に言えば宿舎の雑用をこなす使用人に女性はいたが、おばさんばかりだった。
若い女性には触れることはおろか、話もろくにしたことがない。
もちろん、恋をしたこともない。
先輩たちに娼館などに誘われたこともあるが、生真面目で堅物のクロードは全て断ってきた。
それなのにー。
お披露目パーティーの席を立つ時、父に「今夜は頑張れ。コラール侯爵家はおまえの肩にかかっている」と囁かれた。
部屋に戻ると伯爵家の侍女たちに風呂に入れられそうになったから拒否して自分で入ったが、出てくると家令が待っていた。
そして、「女性の準備は時間がかかりますから少しおいてから訪ねられた方がよろしいでしょう」とソファに座らせられた。
訝しげに家令を見上げれば、
「半刻ほどおきましたらそちらの扉からどうぞ」と扉を指し示す。
「扉?」
たしかに寝室の奥に扉が見える。
「大事な初夜でございます。最初が肝心ですよ、旦那様。一度きりで嫌がられないよう、優しくして差し上げませ」
やっとその意味を理解して口を挟もうとすれば、スッと袖机の上を指し示された。
「少しご酒を召したらよろしいかと。緊張がほぐれますよ」
声も出せずに絶句しているクロードを横目に、家令は部屋を出て行った。
「しょ…、や…」
クロードはそう呟いて、思わず手のひらを口に当てた。
その意味にやっと思いが至り、思考が停止しそうになる。
(あんな、美しい女性を押し倒すのか⁈俺が⁈あんな華奢で…、触れたら折れてしまいそうな女性を⁈)
さっきまで頭の中を占めていたのは明日からのことばかりのはずだった。
あれよあれよの間に結婚してしまったが、あらためて考えると身を切られるように辛いことばかりだと。
まず、騎士の仕事を諦めなくてはいけない。
十年以上精進してきた剣の道を捨てなくてはならないのだ。
そして、いずれ立つ女伯爵の夫になったわけだが、一体それは何をすれば良いのだろうか。
自分はどんな立ち位置で、この伯爵家で暮らせばいいのだろう。
当主は妻なのだから、妻の下で働けと言われるのだろうか。
だが、クロードは騎士学校でこそ優秀だったが、領地経営や事業の勉強などしてきていない。
実際、何の役にも立たないのではないだろうか。
そんな明日からの生活をあれこれ悩んでいる折に、家令に今目の前の懸案事項を叩きつけられたのだ。
「結局…、種馬として役に立てということなんだろうか…」
クロードは扉を睨むように見つめた。
そして美しい新妻に思いを馳せる。
アリスが思った通り、クロードは頭を抱えていた。
騎士学校の宿舎暮らしだったクロードは周りに女性がいない生活が長い。
厳密に言えば宿舎の雑用をこなす使用人に女性はいたが、おばさんばかりだった。
若い女性には触れることはおろか、話もろくにしたことがない。
もちろん、恋をしたこともない。
先輩たちに娼館などに誘われたこともあるが、生真面目で堅物のクロードは全て断ってきた。
それなのにー。
お披露目パーティーの席を立つ時、父に「今夜は頑張れ。コラール侯爵家はおまえの肩にかかっている」と囁かれた。
部屋に戻ると伯爵家の侍女たちに風呂に入れられそうになったから拒否して自分で入ったが、出てくると家令が待っていた。
そして、「女性の準備は時間がかかりますから少しおいてから訪ねられた方がよろしいでしょう」とソファに座らせられた。
訝しげに家令を見上げれば、
「半刻ほどおきましたらそちらの扉からどうぞ」と扉を指し示す。
「扉?」
たしかに寝室の奥に扉が見える。
「大事な初夜でございます。最初が肝心ですよ、旦那様。一度きりで嫌がられないよう、優しくして差し上げませ」
やっとその意味を理解して口を挟もうとすれば、スッと袖机の上を指し示された。
「少しご酒を召したらよろしいかと。緊張がほぐれますよ」
声も出せずに絶句しているクロードを横目に、家令は部屋を出て行った。
「しょ…、や…」
クロードはそう呟いて、思わず手のひらを口に当てた。
その意味にやっと思いが至り、思考が停止しそうになる。
(あんな、美しい女性を押し倒すのか⁈俺が⁈あんな華奢で…、触れたら折れてしまいそうな女性を⁈)
さっきまで頭の中を占めていたのは明日からのことばかりのはずだった。
あれよあれよの間に結婚してしまったが、あらためて考えると身を切られるように辛いことばかりだと。
まず、騎士の仕事を諦めなくてはいけない。
十年以上精進してきた剣の道を捨てなくてはならないのだ。
そして、いずれ立つ女伯爵の夫になったわけだが、一体それは何をすれば良いのだろうか。
自分はどんな立ち位置で、この伯爵家で暮らせばいいのだろう。
当主は妻なのだから、妻の下で働けと言われるのだろうか。
だが、クロードは騎士学校でこそ優秀だったが、領地経営や事業の勉強などしてきていない。
実際、何の役にも立たないのではないだろうか。
そんな明日からの生活をあれこれ悩んでいる折に、家令に今目の前の懸案事項を叩きつけられたのだ。
「結局…、種馬として役に立てということなんだろうか…」
クロードは扉を睨むように見つめた。
そして美しい新妻に思いを馳せる。