花婿が差し替えられました
「晩餐の前に、よろしいですか?」
「貴女に聞きたいことがあります」
二人の言葉が見計らったように重なった。
一瞬息を飲んだアリスはしかし小さく微笑んで、「では旦那様からどうぞ」とクロードの方へ手を差し出した。
余裕さえ感じさせるアリスの態度に、クロードはそれだけで何やら負けたような気分になる。
「いや、貴女から」
「いいえ、旦那様から」
「しかし、貴女が、」
「いいえ、旦那様が私に聞きたいこととは何でしょう?」
微笑みながらも全く引く様子を見せないアリスに、クロードは軽くため息をついた。

「今日、騎士団に辞表を出しに行ったのです」
仕方なく、クロードは話し始めた。
「そこで、団長から驚くようなことを言われました。貴女が来て私の除隊を撤回するよう迫ったと。しかも、ルイーズ王女殿下の護衛も願い出たと」
「ええ。事実です」
アリスはクロードに真っ直ぐ視線を向けて頷いた。
全く悪びれもしない彼女に、クロードは舌打ちした。
「貴女は私に断りもなく勝手に私の職場を訪ね、勝手に私の未来を変えてきたのですか?」
「あら、変えたのではありません。元に戻してきたのですわ」
相変わらずアリスの態度は悪びれていない。
クロードはつい荒ぶりそうになる声を必死に抑え、静かに問いただした。
「何故貴女は私に相談もせず、そうして勝手に自分の思い通りにしようとするんですか?私は婿養子だから、貴女の言いなりにならなければいけないということですか?自分の知らないところで自分のことを決められていたなど、本当に、心底気分が悪いです」
何故アリスがクロードを騎士に戻そうとしているのかは知らないが、勝手に動くのはあまりにも傲慢だ。
この三日間、話す気があればいくらでも時間はあったはずなのだから。
クロードに気分が悪いと言われ、アリスははじめてばつが悪そうな顔をした。

「黙って行ったのは申し訳なかったと思いますわ。でも、貴方に話したら止められると思ったのです。貴方はその…、全て諦めたような顔をしていたから。ナルシス様の身代わりに、騎士の道を捨てようとなさっていたでしょう?」
「…当たり前でしょう?私はそのための婿養子なのではないのですか?」
「違います。貴方に騎士を辞めてまで家業をサポートしていただくつもりは、」
「だいたい勝手に私のことを探り、上司にまで掛け合うのはあまりにも私を馬鹿にした行動だ」
「馬鹿にしてなど…。貴方の夢の邪魔をして、これ以上貴方に犠牲を強いるのは私の本意ではないのです」
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