花婿が差し替えられました
真っ直ぐにアリスを見つめると、彼女は困ったように微笑んだ。
「ええ。二年あれば、貴方の実家であるコラール侯爵家との結びつきもさらに強固になり、事業も益々発展することでしょうね」
「二年…、あれば…」
「ええ。王女様が輿入れされるまでに、私たちの結婚は解消できると思います」
アリスは小さく笑うと、視線を手元に落とした。
「私は領地と王都の行き来で、これからもっと忙しくなると思います。貴方も護衛騎士になればさらにお忙しいでしょうし、新婚といってもすれ違いの日々ですね。でも、お互い顔を合わせない方が穏やかに過ごせるのではないでしょうか?」
クロードは視線の合わないアリスの顔を見つめた。
彼女はあの初夜の晩、きっぱりと結婚生活を諦めたのだ。
そして、早急にこれからのことを考えた。
離縁してもクロードが戻る場所を残しておくために。
「そうですか…。では、有難く騎士に戻していただきましょう」
クロードはそう言うと静かに席を立った。
もうこれ以上彼女と話すことはなかったから。
晩餐は、後で部屋に運んでもらうことにしよう。
「結局…、貴女が欲しかったのは侯爵家出身の婿という肩書きだけで、生身の私は邪魔だったと言うわけか」
アリスを見下ろし、クロードはぽつりと溢した。
アリスはハッとしたように顔を上げたが、もうその時にはクロードは扉の方へ向かっていた。
クロードは今日、初夜での暴言を謝罪するつもりでいた。
いくらやり場のない怒りや憤りを抱えていても、彼女に当たるのはお門違いだったと思う。
あれは完全に八つ当たりで、酷い暴言だ。
騎士の精神を叩き込まれた自分が、か弱い女性に対して決して言ってはいけない言葉であった。
どんな経緯であれ二人は夫婦になったのだ。
アリスの行動に腹立たしいことは多々あっても、それはそれとして、夫婦としての関係を築いていかなくてはならなかったのではないか。
だが…、その必要もなくなった。
アリスはもう、離縁後のことを見据えているのだから。
(明日から、寮に戻ろう)
クロードは今出てきたダイニングの方を振り返った。
アリスは一人で晩餐を続けているのだろうか。
騎士団に戻れるのも護衛騎士に推挙されたのも嬉しいはずなのに、クロードの胸には苦いものがこみ上げていた。
「ええ。二年あれば、貴方の実家であるコラール侯爵家との結びつきもさらに強固になり、事業も益々発展することでしょうね」
「二年…、あれば…」
「ええ。王女様が輿入れされるまでに、私たちの結婚は解消できると思います」
アリスは小さく笑うと、視線を手元に落とした。
「私は領地と王都の行き来で、これからもっと忙しくなると思います。貴方も護衛騎士になればさらにお忙しいでしょうし、新婚といってもすれ違いの日々ですね。でも、お互い顔を合わせない方が穏やかに過ごせるのではないでしょうか?」
クロードは視線の合わないアリスの顔を見つめた。
彼女はあの初夜の晩、きっぱりと結婚生活を諦めたのだ。
そして、早急にこれからのことを考えた。
離縁してもクロードが戻る場所を残しておくために。
「そうですか…。では、有難く騎士に戻していただきましょう」
クロードはそう言うと静かに席を立った。
もうこれ以上彼女と話すことはなかったから。
晩餐は、後で部屋に運んでもらうことにしよう。
「結局…、貴女が欲しかったのは侯爵家出身の婿という肩書きだけで、生身の私は邪魔だったと言うわけか」
アリスを見下ろし、クロードはぽつりと溢した。
アリスはハッとしたように顔を上げたが、もうその時にはクロードは扉の方へ向かっていた。
クロードは今日、初夜での暴言を謝罪するつもりでいた。
いくらやり場のない怒りや憤りを抱えていても、彼女に当たるのはお門違いだったと思う。
あれは完全に八つ当たりで、酷い暴言だ。
騎士の精神を叩き込まれた自分が、か弱い女性に対して決して言ってはいけない言葉であった。
どんな経緯であれ二人は夫婦になったのだ。
アリスの行動に腹立たしいことは多々あっても、それはそれとして、夫婦としての関係を築いていかなくてはならなかったのではないか。
だが…、その必要もなくなった。
アリスはもう、離縁後のことを見据えているのだから。
(明日から、寮に戻ろう)
クロードは今出てきたダイニングの方を振り返った。
アリスは一人で晩餐を続けているのだろうか。
騎士団に戻れるのも護衛騎士に推挙されたのも嬉しいはずなのに、クロードの胸には苦いものがこみ上げていた。