花婿が差し替えられました
◇◇◇

「お嬢様、またミツバチ殿が来たから追い返しておきましたわよ」
侍女のフェリシーが執務中のアリスに声をかけた。
「まぁ、性懲りも無く、暇な方ね」
アリスは呆れたように笑ってため息をついた。
ナルシスが、アリスとの復縁を願ってちょくちょく来訪するのだ。
すでに実弟と婚姻している女性に非常識な話だが、元々ナルシスに常識を求める方が無駄なのかもしれない。
彼はまだ、なんとかなると思っているらしいのだから。
この件はコラール家に苦情を申し入れているのだが、ナルシスはなんとか監視の目を掻い潜って邸を抜け出して来るようだ。
そんな情熱があるなら他のことに使えば良いのに、とアリスは思う。

「なんなんですか?ミツバチと言いガキんちょと言い、あの家の息子たちは」
フェリシーは怒りを隠そうともせずにそう言った。
もちろん、ガキんちょと呼ばれたのはアリスの夫クロードだ。
そのガキんちょは、あの口論した夜以来騎士の宿舎に戻り、一度もサンフォース伯爵邸に帰って来ない。

「言葉が過ぎるわよ、フェリシー」
「じゃあくそガキですわね。だってアリスお嬢様への暴言と態度、このフェリシー、到底許せません」
フェリシーはクロードの部屋の方を睨んで罵った。

「仕方ないわ、私が悪いんだもの。あの方には本当に申し訳ないことをしたわ」
アリスの言う『申し訳ないこと』が身代わりで結婚したことを指すのか勝手に騎士団に行ったことを指すのかわからないが、どちらにしろフェリシーは全面的にアリスだけの味方だ。
この素晴らしいお嬢様と結婚出来ることこそ幸運なのに、それを理解しないわからずやは、やっぱりフェリシーにとって『ガキんちょ』なのだ。

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