花婿が差し替えられました
「驚きましたわ旦那様。テルル語が堪能ですのね」
ホールの端で休憩しながら、アリスは素直にそう言った。
あの後テルル人の商人なども加わり、会話は大いに盛り上がったのだ。
「貴女には敵いません…。それに、コラール家は昔からテルル人との交友が多いので、それで言葉ができるようになっただけですよ」
クロードは少し恥ずかしそうに苦笑したが、アリスは首を大きく横に振った。
「いいえ。言葉だけではなくテルルの歴史や背景にも詳しくて、皆感心していましたわ。おかげで、次の縁も繋げそうです」
和やかなムードの中、テルミー子爵やテルルの商人たちは、次は事業の話で会いたいとアリスに言った。
大げさではなく、クロードが繋げてくれた縁だと思う。
「貴女の役に立ったのなら…、良かったです」
はにかむように笑ったクロードの笑顔に、アリスの胸が思わずキュンと鳴った。
「私の…役に、ですか?」
「ええ。木偶の坊のようにただ貴女の横に立っているだけというのは、正直キツい」
「木偶の坊…」
その言葉を聞いて、アリスは眉を顰めた。
要するにクロードは、アリスがずっと彼を木偶の坊扱いしてきたと言いたいのだろう。
黙って考え込んでしまったアリスに、クロードは手を差し出した。
「踊ってくれますか?アリス」

「…また驚いてしまいました。この短期間でずいぶんお上手になったんですね」
クロードにリードされながら、アリスは彼の顔を見上げた。
彼は涼しい顔でアリスをリードし、軽やかにステップを踏んでいる。
あの、半年前の結婚披露宴でのダンスとはまるで別人のようだ。
「少々レッスンを受けましたから」
クロードは得意げにそう言ったが、アリスはぎこちなく微笑んだ。
それもまた、披露宴で恥をかいた彼が自分を見返すために努力したのだと理解したからだ。

(でも…)
逞しいクロードの腕で軽々と持ち上げられ、ドレス姿のアリスが蝶のように舞う。
(楽しい)
アリスは心からそう思った。
こんなにダンスが楽しいと思ったのは初めてのことだ。

クロードもまた楽しげにアリスをリードし、二人はお互いだけを見つめ合いながら舞い続けたのだった。
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