花婿が差し替えられました
コラール家との商談の時のこと。
いつもはコラール家長男パトリスとアリスの間ですすめられるのだが、最近は三男レイモンも加わるようになった。
レイモンは近いうちに婚約者と式を挙げ、侯爵家から独立すると聞く。

「サンフォース伯爵。名前でお呼びしてもよろしいですか?」
商談を終えた後、アリスはレイモンに話しかけられた。
クロードと結婚して半年経つが、こうして三兄のレイモンと面と向かって会話するのはおそらく初めてのことだ。
「どうぞアリスとお呼びくださいませ、レイモン様。貴方とは同い年ですが、私は義妹にあたるのですもの」
「ではアリスさんと呼ばせていただきます」
レイモンは人当たりの良さそうな笑顔でそう言った。
美形揃いのコラール家の息子だけあって、レイモンもまた眉目秀麗な青年だ。
ただ、四人の中では幾分神経質そうにも見える。

「クロードは新妻を放ったらかして避寒地で遊興中らしいですね」
突然クロードの話を振られ、アリスは眉を上げた。
二人に共通する人間がクロードなのだから当たり前なのだが、いきなり遊興中とは穏やかじゃない。
「旦那様はお仕事で行かれたのですわ。遊んでなんておりません」
「どうですかね。敬愛する王女様について行かれたのですから」
「その王女様をお守りするために随行したのですわ」
クロードがどんなに騎士の仕事に誇りを持っているかアリスは理解しているつもりだ。
それを血の繋がった兄であるレイモンがクロードを貶めるようなことを言うなんて納得がいかない。
不機嫌さを隠そうともしないアリスを見て、レイモンは嘲るように笑った。
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